在宅医療(訪問診療)クリニックの院長職:病院勤務とは異なる「経営」の面白さ

超高齢社会を迎えた日本において、在宅医療・訪問診療のニーズは年々高まり続けています。2026年以降も市場は拡大を続けると予測されており、病院勤務医から訪問診療クリニックの院長へとキャリアチェンジする医師が増加しています。しかし、そこには単なる「診療の場の変化」だけでなく、「医師から経営者へ」という大きなマインドセットの転換が求められます。
今回は、訪問診療クリニックの院長職が持つ独自の魅力と、病院勤務とは異なる「経営」という新しいやりがいについて解説します。
病院勤務医から経営者へ:求められるマインドセットの転換
プレイヤーから経営者への意識改革
病院勤務医時代は、組織の一員として医療技術を磨き、目の前の患者様に最善の治療を提供することが最大のミッションでした。しかし、訪問診療クリニックの院長になると、その役割は大きく変わります。
病院勤務医と院長の違い
| 項目 | 病院勤務医 | 訪問診療クリニック院長 |
|---|---|---|
| 役割 | 医療のプロフェッショナル | 医療のプロ + 経営者 |
| 意思決定 | 組織の方針に従う | 自ら戦略を立案・実行 |
| 責任範囲 | 診療業務が中心 | 診療・経営・人材管理すべて |
| 収入構造 | 固定給 | 経営成果に連動 |
| 自由度 | 限定的 | 診療方針・経営戦略を自由に決定 |
院長として成功するためには、「優れた医師であること」に加えて、「経営者としての視点」を持つことが不可欠です。これは、診療技術だけでなく、経営戦略、財務管理、人材マネジメント、マーケティングなど、多岐にわたるスキルを習得することを意味します。
在宅医療クリニック経営の面白さ
1. ストック型ビジネスモデルの魅力
訪問診療の最大の経営メリットは、「ストック型ビジネスモデル」にあります。
外来診療(フロー型)との比較
- 外来診療: 天候や季節、地域の流行によって患者数が大きく変動し、収益が不安定
- 訪問診療: 定期的な訪問契約により、毎月安定した収益を確保できる
訪問診療では、在宅時医学総合管理料や施設入居時等医学総合管理料を月1回算定できるため、患者様一人ひとりが継続的な収益源となります。1か月あたり80名の患者様を診療し、レセプト単価を65,000円と仮定した場合、月間売上は520万円、年間では6,240万円に達します。
この安定性は、経営者として中長期的な戦略を立てやすく、スタッフの雇用や設備投資などの判断を冷静に行える環境を生み出します。
2. 少ない初期投資で始められる経営
訪問診療クリニックの開業に必要な資金は、1,500万円〜2,000万円程度とされています。これは、一般的な外来クリニック(5,000万円〜1億円)と比較すると大幅に低い投資額です。
主な初期投資項目
- 事務所・診察室の賃貸費用
- 訪問用車両(医療機器搭載)
- ポータブル医療機器
- 電子カルテシステム
- 人材採用費用
初期投資が少ないということは、経営リスクを抑えながら、自分の理想とする医療を実現できるということです。また、万が一の場合でも撤退しやすく、新しいチャレンジに対する心理的ハードルが低いのも特徴です。
3. 収益性の高さと年収アップの可能性
訪問診療は、診療報酬制度上、比較的高い点数が設定されており、適切な運営を行えば高収益を実現できます。
年収の目安
- 勤務医として訪問診療に従事: 年収1,500万円〜2,000万円以上
- 院長として経営: 年収2,000万円〜3,000万円以上(経営規模による)
病院勤務医の平均年収が約1,300万円であることを考えると、訪問診療クリニックの院長職は収入面でも大きな魅力があります。さらに、経営手腕次第では、複数の医師を雇用して診療体制を拡大し、より大きな収益を目指すことも可能です。
経営者として直面する課題とその対応
人材マネジメントの重要性
訪問診療クリニックでは、院長や事務長が診療業務と管理業務を兼任することが多く、人材マネジメントに十分な時間を割けないという課題があります。しかし、チーム医療を実現し、質の高い在宅医療を提供するためには、優れた人材マネジメントが不可欠です。
院長に必要な人材マネジメントスキル
- 採用戦略: 訪問診療の理念に共感し、患者様に寄り添える人材を見極める
- 育成・教育: 在宅医療特有の知識やスキルを体系的に教育する
- モチベーション管理: スタッフが働きがいを感じられる環境を作る
- チームビルディング: 多職種連携を円滑にし、心理的安全性の高い組織を構築する
人材マネジメントは、経営の成否を左右する最重要課題の一つです。スタッフ一人ひとりが自走し、患者様に質の高いケアを提供できる組織を作ることが、院長の腕の見せ所といえるでしょう。
24時間オンコール体制への対応
訪問診療では、24時間365日体制での対応が求められます。これは院長にとって大きな負担となる可能性があります。
対応策
- 複数医師体制の構築
- オンコール当番制の導入
- 連携医療機関との協力体制確立
- オンコール代行サービスの活用
経営者として、自らの負担を軽減しつつ、患者様に安心を提供する仕組みづくりが求められます。
集患と地域連携の戦略
訪問診療は、患者様が自らクリニックを訪れるわけではないため、外来診療とは異なる集患戦略が必要です。
効果的な集患方法
- 地域の病院や診療所との連携構築
- ケアマネージャーや訪問看護ステーションとのネットワーキング
- 地域包括支援センターとの協力関係
- 地域での講演会や勉強会の開催
- ウェブサイトやSNSでの情報発信
経営者として、地域医療のハブとなり、多職種と信頼関係を築くことが、持続的な成長につながります。
2026年診療報酬改定と今後の展望
2026年度の診療報酬改定では、在宅医療分野でデータ活用を前提とした評価が強化される見込みです。「在宅データ提出加算」の新設や「在宅医療情報連携加算」の拡充など、データに基づく質の高い医療提供が求められる時代になっています。
経営者として、これらの改定動向を的確に捉え、クリニックの運営方針に反映させることが重要です。「なんとなく経営」から脱却し、データドリブンな経営判断を行うことで、競争力を高めることができます。
在宅医療院長職の本当のやりがい
患者様と深く関わる全人的医療
病院勤務では、疾患の治療に焦点が当たりがちですが、訪問診療では患者様の生活環境や家族背景、価値観を含めた「全人的医療」を提供できます。患者様の自宅という最もプライベートな空間で、その人らしい人生の最期まで寄り添えることは、医師としての最大のやりがいです。
自分の理念を実現できる自由度
経営者として、自分が理想とする医療を自由に設計できることは大きな魅力です。診療方針、スタッフの採用基準、地域連携の在り方など、すべてを自らの判断で決定できます。
組織を成長させる経営の醍醐味
小さなクリニックから始めて、スタッフを増やし、診療体制を拡大し、地域になくてはならない医療機関へと成長させていく――この過程そのものが、経営者としての大きな喜びです。数字の改善、スタッフの成長、患者様からの感謝の言葉。すべてが、自らの経営手腕の証となります。
まとめ:医師としてのキャリアに「経営」という新しい挑戦を
訪問診療クリニックの院長職は、医療のプロフェッショナルとして患者様に寄り添いながら、同時に経営者として組織を成長させるという、二つの顔を持つやりがいのある仕事です。
病院勤務とは異なる「経営」の面白さを体験し、自分の理念を実現できる在宅医療の世界。高齢化社会が進む日本において、その社会的意義はますます高まっています。
医師としてのキャリアに新しい挑戦を求める方にとって、訪問診療クリニックの院長職は、医療と経営の両面で成長できる魅力的な選択肢といえるでしょう。
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