医療機器のフィールドサービスエンジニア(FSE):機械いじりが好きな医療従事者の転身先

はじめに
「臨床の仕事は続けたいが、現場の過酷な労働環境には限界を感じている」 「機械を触ることが好きで、エンジニア的な働き方に興味がある」
このような気持ちを抱えている医療従事者の方は、少なくありません。臨床工学技士や放射線技師として長年キャリアを積んできた方が、医療の現場を「陰から支える」新しいステージへと踏み出す選択肢のひとつが、医療機器のフィールドサービスエンジニア(FSE) です。
本記事では、FSEという職種の全体像から、医療従事者ならではの強み、求められるスキル、年収・キャリアパスまでを詳しく解説します。
フィールドサービスエンジニア(FSE)とは?
医療機器のフィールドサービスエンジニア(FSE)とは、医療機器メーカーに所属し、取引先の医療機関に赴いて、機器の設置・保守・点検・修理・トラブル対応を担う職種です。「フィールドエンジニア」「サービスエンジニア」「メンテナンスエンジニア」など、企業によって呼称が異なる場合もありますが、役割の本質は同じです。
取り扱う機器は幅広く、MRI・CT・X線診断装置・超音波診断装置・人工呼吸器・麻酔器・生体情報モニタ・滅菌装置など、病院の診療・治療を支える”根幹”とも言えるデバイスが対象です。これらの機器に不具合が生じれば、患者さんの命に直結します。FSEは、その安全性と稼働を維持するために、欠かすことのできない存在です。
主な仕事内容
FSEの業務は、大きく以下の4つに分類されます。
① 定期保守・点検
メーカーが定めたチェックリストに従い、医療機器の定期メンテナンスを実施します。異常の有無を確認し、部品交換や調整を行います。多くの場合、複数の病院・クリニックを定期的に巡回する形となります。
② トラブル・故障対応
機器の突発的な故障や不具合に対し、迅速に医療機関へ駆けつけ修理対応を行います。医療現場にとっては緊急事態であるため、スピードと正確さが求められます。場合によっては夜間・休日対応も発生します。
③ 設置・初期設定
新しい医療機器の搬入・設置から、性能を最大限引き出すための設定調整まで担当します。医師・技師スタッフへの操作説明・トレーニングもFSEの重要な役割のひとつです。
④ 保守契約の提案・消耗品販売
定期的な顧客訪問を通じて、保守契約の更新提案や消耗品の販売など、軽微な営業活動も行います。技術力を背景とした信頼関係が、そのまま営業力につながります。
医療従事者がFSEに転身するメリット
臨床経験が”即戦力”になる
近年、医療機器メーカーの間で新しいトレンドが生まれています。それは、「臨床工学技士(ME)を歓迎する採用」 です。
かつては、複写機や産業機械のサービスエンジニア経験者を採用し、入社後に医療機器の知識を教えるケースが主流でした。しかしコロナ禍を経て、現場の疲弊から転職を考える臨床工学技士が増えたことで、「MEとしての専門知識・臨床経験をそのまま活かしてほしい」と考えるメーカーが急増しています。
「臨床工学技士歓迎!MEとしての専門知識を活かしませんか?」という求人は、今や珍しいものではありません。
放射線技師は画像診断装置メーカーへ
放射線技師の場合も同様で、CTやMRIなどの画像診断装置メーカーのFSEとして転身するケースが増えています。放射線技師が培ってきた画像診断装置の操作知識・設定スキルは、FSEの仕事と親和性が高く、入社直後から現場で活躍できる強みになります。
「機械が好き」という感性が活かせる
臨床の現場にいながら、「機器のトラブルが起きると自分でなんとかしたくなる」「機械の仕組みを深く理解したい」という感性を持っている方は少なくありません。FSEはまさに、その”好き”をキャリアの中心に置ける仕事です。
求められるスキル・資格
必須は「普通自動車運転免許」のみ
意外に思われるかもしれませんが、医療機器を整備・修理するために個人が取得しなければならない公的な国家資格は存在しません。多くの場合、採用要件として求められるのは「普通自動車運転免許」です。複数の医療機関を自分で運転して巡回するため、これは実務上の必須条件となります。
ただし、臨床工学技士の資格を保有している場合は、転職・待遇面で大きく有利になります。
在籍後に取得する社内資格・講習
入社して3年以上の業務経験を経ると、「医療機器修理責任技術者基礎講習」の受講資格が得られます。受講費用は会社負担が一般的で、この講習修了者が各拠点の”責任技術者”として機器修理の届出を担います。さらに専門分野に応じて「8区分専門講習」もあり、こちらを取得することでキャリアアップにつながります。
あると強いスキル・知識
- 電気・機械・ネットワークの基礎知識:医療機器はソフトウェア・ハードウェアが複合的に絡み合うため、幅広い工学知識が役立ちます
- 英語読解力:外資系メーカーを中心に、英語のマニュアル・技術資料が多く存在します
- コミュニケーション能力:医師・看護師・検査技師など多職種と良好な関係を築く力は必須です
仕事のやりがい
医療現場から「ありがとう」をもらえる
FSEの仕事の最大の醍醐味は、医療従事者や患者さんから直接感謝される体験です。緊急トラブルを迅速に解決したとき、「あなたがいてくれて助かった」という言葉は、何物にも代えがたいやりがいになります。
最先端技術に触れ続けられる
医療機器は常に技術革新が続いています。AIを搭載した診断支援システム、次世代の低侵襲デバイスなど、最新の医療テクノロジーと常に接点を持ち続けられるのは、知的好奇心が旺盛な方にとって大きな魅力です。
一人ひとりの裁量が大きい
担当エリアや担当機器を持ち、基本的には自律的なスケジュールで働けます。直行直帰も多く、自分のペースで仕事を進めやすい点も評価されています。
仕事の厳しさも知っておこう
緊急対応は現場がピリピリしていることもあります。医療機器の不具合は一刻を争う事態であり、エンジニアには高い集中力と冷静さが求められます。また、夜間・休日対応が発生するケースや、担当病院によっては24時間対応が必要になることもあります。
自分に非がなくても状況を謝罪しなければならない場面もあるため、精神的なタフさとプロ意識が必要な仕事でもあります。
年収・キャリアパス
年収の目安
医療機器FSEの年収は、経験・企業規模・担当機器によって幅がありますが、500万円前後が相場とされています。JACリクルートメントの調査では、同社経由での転職者の平均年収は700万円前後というデータも出ており、スキルと経験によって高収入を狙える職種です。
| ステージ | 年収目安 |
|---|---|
| 入社〜数年(経験積み上げ期) | 400〜550万円 |
| 中堅(担当エリア・製品責任者) | 550〜700万円 |
| 管理職・サービス部長クラス | 800万円〜 |
| 外資系企業・ハイクラス | 1,000万円超も可能 |
キャリアパス
FSEとしての経験を積んだ後のキャリアは多岐にわたります。
- テクニカルサポート職:顧客や社内エンジニアからの技術問い合わせに対応する専門職
- サービスマネージャー:チームのリーダーとして後輩育成・サービス体制の構築を担当
- アプリケーションスペシャリスト:機器の臨床的な活用方法を医療機関に指導する専門職
- 製品開発・品質管理部門:現場の知見を活かして製品改良に貢献
- 営業職(メディカルデバイス):顧客との関係をベースに営業へとシフト
こんな方に特におすすめ
✅ 臨床工学技士・放射線技師として働いているが、体力的・精神的に臨床継続に不安がある
✅ 機械いじりが好きで、修理・調整の作業に達成感を感じる
✅ 医療に貢献し続けたいが、病院勤務以外の選択肢を探している
✅ ひとつの場所に縛られず、フィールドワークで動き回る仕事がしたい
✅ 30〜40代で、今後のキャリアアップ・年収アップを真剣に考えている
まとめ
医療機器のフィールドサービスエンジニア(FSE)は、臨床の最前線から一歩引いた位置で、医療現場全体を「機器の安定稼働」という形で守る仕事です。機械が好きな医療従事者にとっては、自分の強みをストレートに活かせるキャリアの転換先であり、年収・ワークライフバランス・成長機会のすべてにおいて魅力的な選択肢です。
「転職を考えているが、自分の経験がFSEに活かせるか不安」という方こそ、まず一度専門家に相談することをお勧めします。